6年前の夏のことでした。
付き合ったばかりの彼氏(今の夫)と私は、夏を感じる開放的なところにデートに行きたいと話合って、葛西臨海公園へ遊びに行きました。
行ってみてわかったのですが、葛西臨海公園は海辺の公園なのですが砂浜はなく、コンクリートで固められた波打ち際でちゃぷちゃぷ遊ぶといった風の公園でした。
夏の暑い日差しの下で遊ぶ子どもたちを眺めながら、のんびりコーラなど飲んでいると、ふと、足元のタイドプールに動くものを見つけました。
小さなカニです。
もともと小さな生き物を追いかけるのが好きな私は思わず素手で捕まえにかかりました。
もちろん、そんなに簡単に捕まるわけはありません。
カニも必死に生きているのです。
すると、それを見た彼氏がおもむろに立ち上がり、売店へ向かうと、私のために小さな網とプラスチック製の水が入るタイプの虫かごを買って来てくれたのです。
「さすが農学部だね!」と言ってにこにこしながらそれらを渡されると、引っ込みが着かなくなってしまいました。
そこまでするつもりはなかったんだけれども…。
その後、無事にカニを1匹捕獲した私たち。
このカニを私が連れて帰って飼うことにしました。
虫かご買ってもらっちゃったしな…。
海からの帰宅後、ホームセンターに行って、塩水を作る粉と小さなエアーポンプ、同じく小さな土管を買って来て、セット完了です。
その日からカニと女子大生の2人暮らしが始まりました。
水槽を洗ったり、餌をあげたり、塩水を作ったり、せっせと世話をする日々。
しかし、ある日突然異変が生じます。
何気なく水槽を見ると、あのカニがいないのです。
当時住んでいたのは狭い狭い1ルームの部屋。
その部屋中を探しまわりましたが、カニは見つかりません。
くたくたになった頃、靴箱のあたりからカサカサという小さな物音が…。
靴をひっくり返してみると、いました、わたしのカニさんが。
知らないうちに潰さなくて本当に良かったです。
そうなってしまうと、いろんな意味で嫌ですからね…。
そして、秋がきて、冬がきて、わんぱくなカニさんも動きが鈍くなりました。
12月になるころには全く動かなくなり、冬眠しているのかなと安易に考えて放っておきました。
しかし、冬眠しているからといって水を換えない訳にはいきません。
ある日、掃除のためにそうっと水槽に手を差し込んだ瞬間、崩れたのです。カニさんの脚が。
突然の出来事に、何が起こったのか最初は分かりませんでした。
でも、カニさんは亡くなっていたのです。
知らない間に。
その後、平静を取り戻した私は、カニさんに静かに手を合わせ、近くの公園に手厚く葬りました。
カニさん、短い間だったけれど、楽しい思い出をありがとう。
夏が来るたびに思い出すカニさんの思い出でした。